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院長挨拶

2021年7月1日
東邦大学医療センター大森病院
病院長 瓜田純久
東邦大学医療センター大森病院 病院長 瓜田純久

 東邦大学が100周年を迎える2025年まで、4年足らずとなりました。100年前の医師養成は年限の短い教育機関ではなく、ドイツのような学問の府たる大学で一元的に行われるべきであるとする医育一元論が高まり、1918年(大正7年)に大学令が公布され、私立単科大学も認められました。これに対して、学祖の額田豊先生は、医育を大学教育だけに統一すると、気位ばかり高い医師が誕生し、農村・漁村・山間部では医師が不足する結果になると訴え、敢えて帝国女子医学専門学校を設立しています。これは1918年(大正7年)から1920年に猛威をふるったスペイン風邪において、都市部だけではなく、地方でも多くの死者を出した状況も無関係ではなかったと思われます。大森病院は帝国女子医学専門学校付属病院として、世界で5千万人が亡くなったスペイン風邪の余韻が残る1925年に開院しています。

 100年前のスペイン風邪に匹敵する新型コロナウイルス感染症の襲来により、2020年以降の世界は大混乱に陥りました。2021年7月現在、日本の累積感染者は80万人を超え、1万4千人以上の方が亡くなっています。人類の誕生は700万年前、ホモ・サピエンスは20万年前ですが、ウイルスは30億年前に存在していたと報告されています。野生動物、昆虫を循環するウイルスも多く、開発によりヒトと野生動物の接点が増えたことから、ヒトにとって新たな脅威として出現したと考えられています。「見えない脅威」と対峙するため、生活は大きく制限され、多くの方々にとって非常時が常態化せざるを得ない状況となりました。多くの不条理を解決するため、当たり前と思っていることを改めて根底から問い直した方も多いのではないかと思います。

 大森病院は特定機能病院として高度先進医療を提供する一方、地域の皆様の期待に応えられる地域の基幹病院としての役割も重要と考えています。コロナ禍においては新型コロナ感染症診療と、本来の役割である高度先進医療の両立を目指し、職員が一丸となって取り組んで参りました。診療は多職種で構成されるチーム医療で行われ、コロナ診療も同様です。多職種が協力し、徹底した感染対策を講じておりますが、変異を繰り返す新型コロナウイルスでは、これまで以上に警戒が必要です。重ねてご協力いただきたく、お願い申し上げます。

 多くの診療において最もみなさまと接点が多く、感染症診療においても最前線に立つ看護師たちは、皆様にとって心強い存在になると思います。専門スキルを有する特定看護師、認定看護師も多数配置し、高度な専門診療を支えています。コロナウイルスPCR検査に奮闘してくれた臨床検査技師は、積極的に最新の検査方法の導入を図り、測定精度の維持・管理に努め、その専門領域ではトップランナーとして評価されています。高度先進医療の中心となる手術室では、麻酔科・外科系医師、看護師、臨床工学士、そして病院病理部、中央放射線部、輸血部のスタッフが緊密に連携し、大きな手術を支えています。高度先進治療であるロボット手術、腎移植、心臓カテーテル手術、血栓回収術、脊椎手術、内視鏡的手術(POEM)などの予定手術では多くのスタッフがカンファレンスを繰り返して、患者さん固有のリスクを評価して実施しています。また、重症の救急患者さんは救命救急センターのスタッフが対応し、手術やカテーテル治療など他科と連携して治療をすすめていきます。重症患者さんが社会復帰できるように、リハビリテーション科のスタッフが早期から介入していくように務めています。産婦人科は双子の分娩(双胎妊婦)が日本一多く、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)及び新生児集中治療管理室(NICU)を整備し、母体の救命救急への対応、ハイリスク妊娠に対する医療、胎児治療、高度な新生児医療を提供しています。不妊症には、リプロダクションセンターで産婦人科と泌尿器科が連携し、女性だけでなく男性の不妊原因検査・治療にも対応しております。

 17-18世紀にはイギリスで薬剤医制度があり、19世紀に外科医の資格も併せもつ総合診療医GPへと発展します。現在の薬剤師は当時の薬剤医以上に多くの知識を持ち、また重要な役割を担っています。みなさまの服用している薬剤、中止しなくてはならない薬剤を速やかに見つけ、また再開すべき時期についても医師と相談して決定しています。各病棟に配置していますので、何でもご相談ください。
 入院したときの唯一の楽しみである食事については、健康的で美味しい食事を提供できるように、栄養部のスタッフは知恵を絞っています。「美味しい」との声もいただいており、さらに工夫を重ね、入院生活でホッとできる時間となるように努力しております。栄養士を各病棟に配置し、病気に合わせて栄養指導も行っています。

 皆様と顔を合わせることは少ないのですが、病院には影で支えてくれるスタッフが多勢います。新型コロナウイルス感染症対策で大活躍した感染管理部は、コロナ感染症だけではなく、耐性菌や院内感染の予防に汗を流しています。地域連携の要であり、円滑な紹介患者さんの受け入れのために、地域連携部門パートナーを設置しています。さらに複雑な社会環境の整備には医療ソーシャルワーカー(MSW)が相談にのっており、医療情報管理センターは個人情報を守っています。皆様の理解とご協力で行う臨床治験や臨床研究では、治験・臨床研究管理部が安全確保に努めています。高度で難易度の高い医療を安全に提供できるように高難度新規医療技術管理部を設立し、高度医療が安全に提供されているか、モニタリングを行っています。特に高度な医療と表裏一体となる医療安全活動には力を注いでおり、医療安全管理部が積極的な医療安全活動に取り組み、医療の質管理部が臨床倫理からモニタリングまで実施しています。また、総合相談部では治療や療養上のご心配、受診相談、医療費など、様々なご質問・ご提案に専従の職員が対応しています。裏方を統括する事務部門では、患者さんの立場から、診療業務や医療の質管理など、みなさまの要望に応えられるように心掛けています。

 このような本学の取り組みを客観的に評価するため、外部評価を積極的に受けております。2021年3月には機能種別評価 一般病院3を受審しています。また、臨床検査に関わる5つの部門(臨床検査部、病院病理部、臨床生理機能検査部、輸血部、薬剤試験室)が、2017年3月に国際標準化機構によるISO 15189「臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項」の認定を取得しました。継続的な質の高い医療を提供するため、学生や研修医の教育にも力を注いでおり、大森病院は卒後臨床研修評価機構の認定を受けております。今後も積極的に外部評価を受け、潜在する課題を見つけて速やかに対応できるように努力して参ります。

 新型コロナウイルス感染症はワクチン接種が進んでいますが、未だ終息が見えません。100年前と異なり、速やかにウイルスを同定し、遺伝子を明らかにしてPCR検査も実施できるようになりましたが、感染拡大を食い止めることはできていません。医療だけではなく、ウイルスを保有する野生動物との接触を減らす対策、自然界におけるヒトの振る舞いに大きな警鐘が鳴らされているのかもしれません。本学の理念は「自然・生命・人間」であり、自然にある多くの生命のひとつとして人間を位置づけています。高度な医療技術の開発は重要ですが、その過信により、医療者と患者さん、そして教養文化との隔たりが大きくなることは避けなくてはなりません。大森病院はコロナ禍においても、できることを着実に実践し、同時に人間味溢れる温かい高度先進医療を提供できる病院として進化していきたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。